絵を描くこと、芸術を作ること。草間彌生はそれ以外のことには興味を持たない。彼女にとって生きることは、描くことそのものなのだ。そんな草間彌生の60年以上にわたる画業を振り返る展覧会が開かれる。
松本で種苗家を営む家に生まれた彼女が絵を描き始めたのは少女時代のこと。視界を一面、水玉や網目が覆うといった幻覚に襲われ、恐怖から逃れるためにその幻覚を描いていた。が、保守的な母とのいさかいは絶えない。彼女はやっとの思いで京都で日本画を学び、松本で個展を開く。そこで出会った精神科医、西丸四方の支援も得て、1957年に渡米した。
アトリエを構えたニューヨークでも草間はカンバスの周囲にどんどん広がっていく網目の幻覚を描き続ける。ポロックに代表されるアクションペインティング全盛の時代に、草間のアートは全くの異端だった。でも草間は他人の真似をしていてはダメだ、と固く信じて、自分にしかできないアートを追求する。1959年、ニューヨークで初めて開いた個展は大成功を収めた。その後、男根の形をした布のオブジェをびっしりと家具などに貼り付けた「ソフト・スカルプチュア」や、マカロニを使ったインスタレーションを発表する。性と食という人間の欲望に対するオブセッション(強迫観念)をアートに昇華させたのだ。
ニューヨークでは全裸や、胸やお尻のところがあいた「クサマ・ドレス」を着た男女が街頭やスタジオで踊り、走るといった「ハプニング」(パフォーマンス)を展開する。体調を崩して1973年に帰国した後はコラージュや版画を手がける一方で、『マンハッタン自殺未遂常習犯』など詩や小説の制作にも取り組んだ。また1960年代から手がけていた鏡や電球を使った作品はさらに大型化し、部屋をまるごとミラールームにしてしまうような作品も制作している。直島の《南瓜》など、パブリックアートも多い。絵画や彫刻といった枠にとらわれず、さまざまなメディアを自在に行き来するアーティストなのだ。
今回の個展では、約130点が日本初公開となる大型の絵画シリーズ「わが永遠の魂」に注目だ。基本的に2メートル四方のキャンバスに具象、抽象を問わずさまざまなモチーフが鮮やかな色とともに踊る。2009年から制作を始め、すでに500点以上が制作されたというハイペースにも驚かされる。草間の画業のすべてがこのシリーズにぎっしりと詰め込まれている、そんな感じもしてくる。
展覧会ではその他に、渡米前の初期作品から網目を描いたニューヨーク時代のネット・ペインティングやソフト・スカルプチュア、帰国後の作品まで、草間のこれまでを概観できる。どれも草間の前に例はなく、追随者だけがいる孤高のアートだ。休むことなく芸術に命を懸けてきた草間彌生の人生そのものを見ることができる。
text: Naoko Aono
国立新美術館開館10周年
「草間彌生 わが永遠の魂」展
会期:2017年2月22日〜5月22日
会場:国立新美術館
東京都港区六本木7−22−2
tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00〜18:00(金〜20:00)
※4/29(土)〜5/7(日)は毎日20:00まで
火曜休
※5/2は開館
当日一般1600円
http://kusama2017.jp