デスティネーション・ストア | File 017
2023.06.09

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 017 : えん -en-(東京都・世田谷)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 017は東京23区内の中でも、有数のローカル感が漂う世田谷エリアで営業をするセレクトショップの えん -en- をご紹介。

Text Takaaki Miyake

オープンまでの着実な道のり

2021年8月にオープンしたばかりの「えん -en-」では、今年27歳になる店主の池田洋輔さんが自ら店頭に立つ。オープンをする直前まではマーケティング会社に身を置いていた池田さんだが、さらに経歴を遡ると国内のファッションやバッグブランドでスタッフとして販売やバイイングの経験も持つという。

「6歳上の兄の影響でファッションが好きになりました。その兄と一緒に原宿のお店へ一緒に足を運ぶようになり、『こんなすごい世界があるんだ』と思って、もっともっとのめり込んでいきました。そして学生時代から社会人でも数年間、アパレルブランドでスタッフとしてのノウハウを培いましたが、それだけでは独立するに足りないと感じていたんです」

いつかは自身のスペースを持つことを考えていたが、売り場での経験のみではその想像が付きづらく、先述のマーケティング会社への転身をはかった。ファッションやアート界では何かをスタートするにあたり「好きだからとにかく始めた」というような言葉を度々聞くが、池田さんはオープンにあたり着実に歩みを進めた。

「マーケティング会社への転職は、分からない部分を補うためにという意味合いが大きかったですね。アパレルだけでなく飲食店や飲料メーカーのクライアントも担当しましたし、PRや企画などの仕事にも携わりました。そうやって勉強しながら2年が経った頃、『これ以上やっても延長線上のことしかないな』と思い、『えん -en-』のオープンの準備を進めていきました。

それに実際に数年働いていても、マーケティングがあまり好きになれなかったのも正直な想いです。もちろん必要な要素ではありますが、結局今は一人で活動しているので、大手企業のように予算を割けるわけでもありません。それだったら広く浅くよりも、狭くても深いことをやろうと」

懐の深い世田谷エリア

「えん -en-」の始動にあたっては、普段の生活をする中でアイデアをぼんやりと考えながら、だんだんと形にしていったという。退職の手続きを進めつつ、オープンの約1年前から本格的に動き出した。同店のユニークな点の一つが、やはりこの世田谷区内でも屈指のローカルエリアである、世田谷駅近くに看板を掲げていることだろう。

「僕自身が世田谷生まれ世田谷育ちなので、エリアとしてはこの辺りでと最初から決めていましたね。個人的にも世田谷線が好きで、自転車で沿線上を実際に周ってみて色々と物件を探しました。世田谷駅で決め打ちしていたわけではないのですが、ボロ市通りのゆったりした雰囲気も好きですし、ここがちょうど空いていたんです」

現在の場所は意外にも隣のバーバー「SURFACE」のリニューアルに伴い生まれた、元々は敷地の一部だった新スペースだ。

「やはりこういった土地柄なので来店される方の数はまだ少ないですが、週末にはふらっと埼玉や千葉からも足を伸ばしてくれるお客様もいらっしゃいます。この辺りはのんびりした感じで、昔から愛される個店も多く、人も尖っていなくて落ち着いているんですよね。懐が深いというか、東京でも地方らしさを感じられると思います」

たしかに取材当日も周辺を歩くと、住宅以外にも昔ながらの飲食店などのお店が点在し、開発が進む東京都内では珍しく時代の流れをあまり感じることはなかった。

えん -en-“らしさ”はどこから来るのか

「えん -en-」の公式サイトへ目をやると、メニューには「すがた -about-」・「めいがら -brand-」・「しなもの -item-」・「はなし -diary-」・「おといあわせ -contact-」​​という言葉が並び、店名の「えん -en-」は、圓・縁・苑・艶を意味するとある。これは日本らしさを全面に打ち出しているように思えるが、意外にもその答えは違った。

「これはウェブサイトを見てもらったときに、少しでも興味を持ってもらったり、楽しんでもらえたりという想いからです。取り扱いは日本ブランドが多いのも事実ですが、それは日本らしさというよりも、サポートをしたい気持ちの方が強いです。『えん -en-』ですでに知名度のあるブランドをやっても、あまり意義は感じられないので、そういう意味で日本ブランドをフィーチャーしたいなという想いはあります。

ブランドのセレクト基準でも自分が着たいというのはもちろんですが、目的を持ってもらわないと中々来店してもらうのが難しいので、他店での取り扱いが少ないブランドをキュレーションしています。なのでECサイトからブランドのファンの方が購入されることも少なくないですね。加えてアイテムを見たときに、そのブランドの軸が感じられることは大切にしている点です。

逆にあるブランドを目がけて来てくださった方が、違うブランドも一緒に買ってくださることもあります。23年春夏からは2ブランドが増えて、次の秋冬シーズンはさらに5ブランドほど新規のお取り扱いがスタートします」

お店ではなくコミュニティが集う場所

そして取材中、池田さんが度々口にしていて印象的だったのが「えん -en-」の場所としての在り方だ。

「ここはお店というよりも場所、コミュニティの場として考えています。単にセレクトショップだけとしてやっていても、個人的にも面白くないですし、ギャラリーなど他と違うことにもフォーカスしていく予定です。チャレンジするなら今のうちに色々とやっていきたいと思います。

とは言いつつも、まだそのフェーズではないとも感じています。『えん -en-』としてのスタイルも100%は確立できていませんし、知名度も獲得していく必要性はあります。それだけではないですが一つの大きな指標にはなるのは確かです。ポップアップにしろギャラリーにしろ、組み先やコラボレーション先にもメリットを感じてもらえないと、やる意義はありませんからね」

「えん -en-」が目指すのは点と点が集まり、線になる。そして線と線が繋がり、えんになる。ひいては心が満たされる素敵なひと、もの、ことが集まり、繋がる場だ。時の流れがゆっくりと進む世田谷区世田谷へ、今度の週末にでも自分だけの“えん”を探しに行ってみてはどうだろうか。

DESTINATION STORES | File 017
えん | en
東京都世田谷区世田谷1-32-13
営業時間 : 14:00〜20:00(木曜定休)
TEL:03-6271-8723
https://en-setagaya.com/
https://www.instagram.com/en_setagaya/