JOURNALIST’S EYE #2 RequaL≡
2022.02.23

次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド5選




Text Kaijiro Masuda(Fashion Journalist)


コロナ禍前は年間250本以上のファッションショーを取材し、数えきれないほどの展示会を長年にわたって見続けているファッションジャーナリストの増田海治郎。彼が「いま知っておくべき日本ブランド」をピックアップしてお届けする不定期連載。「次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド」について5回にわたってお届けする。今回はRequaL≡(リコール)。

世界を魅了する20代のランウェイスター候補

日本の20代のファッションデザイナーと話をしていて驚くのは、アーカイブ=過去に異常に詳しいデザイナーが多いことだ。40〜60代のデザイナーに多い欧米のリアルクローズの歴史やディテールに詳しいタイプとは違い、国や年代、ジャンルを問わず興味を持ったものを幅広くディグるのが彼らの特徴だ。

なかでもモードのアーカイブへの造詣の深さとそれを現代にアレンジする手法に、デジタルネイティブならではの凄みを感じることが多い。物心ついた頃からインターネットやYouTubeが当たり前のようにあった世代は、ひとつのジャンルを盲目的に突き詰めることがない代わりに、興味を持ったら片っ端から掘りまくる。その結果、確実にモンスターたちが誕生しつつあるように感じているのだ。そんな化け物候補のひとりが、RequaL≡の土居哲也である。

2021年春夏の東コレのデビューショーは本当に感動した。心が洗われるような清々しいショーだった。服自体にも唸らされた。Yohji Yamamoto的な黒のダブルブレストのスーツもあれば、HERMES風のスカーフプリントのシャツもある。まるでGiorgio Armaniさんの忙しさを表したかのような袖が8本のArmani風のジャケットもあれば、ジーンズの紙パッチを刺繍で表現したデニムもあり、Ralph Laurenをパロったクマの刺繍のフーディもあれば、デイパックと一体となったドレスもある。

信じがたいようなカオスなショーで、展示会ではサンプルのあまりのプリミティブさに驚いたりもしたけれど、同時に相当な過去への知識量があるのが分かった。彼が面白いのはデザイナーのアーカイブだけではなく、Ralph Laurenやアメリカン・ヴィンテージの知識も豊富なことで、そうした知識は先輩のリサイクルビジネスを手伝っているときに主に養ったという。

コロナ禍になって、ロンドン・ファッションウィークで発表した2021-22AW、2022SSの映像も知性とユーモアの深さを感じさせる出来で、興味の対象と人脈がファッションだけではないことを証明した。師匠である山縣良和のwrittenafterwardsの2015-16AWのショーをオマージュした、2021-22AWの東京でのショーも出色の出来だった。

2022SSのテーマは“Reiss Take(Re + Miss takeの造語)”。間違えという人間らしい瞬間を意図的に服で表現したコレクションだ。本来はシルクで作られるカマーベルトをパンツと同じチノ素材で作ったカマーバンド一体型のパンツ、袖を襟に付けた袖が4本あるように見えるジャケットなど“楽しい間違い”がいっぱいで、展示会で見ても試行錯誤しながら楽しんで作ったのが伝わってきた。

そして今シーズンはもうひとつ大きなトピックがある。ほぼ手作りに近いゆえにこれまでは価格が欧米のハイブランド並で、同世代のファッション好きには手が届かないという問題を彼は抱えていた。しかし今シーズンから大手アパレルのワールドが生産のバックアップに入り、手の良い工場を適正な工賃で使えるようになった。結果、クオリティは大幅に上がり、価格はこれまでの半額程度に抑えられている。卸先も大幅に増えたようなので、今シーズンは街でRequaL≡の服を見かける機会が増えるのではないだろうか。

Designer Profile

土居哲也。1993年、岡山県出身。ロックバンドのジャンヌダルクに憧れてファッションを志す。東京モード学園、文化ファッション大学大学院を卒業後、ここのがっこう、Meに修学。2016年にRe:quaL≡(現RequaL≡)をスタート。第34回イエール国際モードフェスティバルのモード部門で審査員特別賞を受賞。 2020年秋冬コレクションより東京コレクションに参加。2020年に東京ファッションアワードを受賞。

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