次の御三家の座を狙う、30代のジャパン・ブランド5選
コロナ禍前は年間250本以上のファッションショーを取材し、数えきれないほどの展示会を長年にわたって見続けているファッションジャーナリストの増田海治郎。彼が「いま知っておくべき日本ブランド」をピックアップしてお届けする不定期連載の1回目は「次の御三家の座を狙う、30代のジャパン・ブランド」について。
Text : Kaijiro Masuda(Fashion Journalist)
Edit Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
COMME des GARÇONS、Yohji Yamamoto、ISSEY MIYAKEのいわゆる“御三家”の次を担うジャパン・ブランドの筆頭は、阿部千登勢のsacaiと高橋盾のUNDERCOVERだろう。2人はともに50代。その下の40代もMaison MIHARA YASUHIROの三原康裕、takahiromiyashitaThesoloist.の宮下貴裕ら人材が揃っていて、さらにはその下の世代も着々と育ってきている。この企画では、次に世界でブレイクする可能性の高い日本の30代のデザイナー、20代のデザイナーを2回に分けて、極めて個人的な視点で紹介する。初回は30代デザイナー編。
◉BED j.w. FORD
そこはかとなく漂うエレガンスと色気

以前ほど確固たるものではなくなったけれど、ファッション、とくにモードの世界にはトレンドというものがある。その大きな流れを作れたら本当に素晴らしいけれど、それができるのは世界のほんの一握りのデザイナーのみ。時代の流れに乗るのか乗らないのか。ほとんどのデザイナーはその選択を常に迫られる。
VETEMENTSが世を席巻した2016〜2017年。世の中のモードのほとんどがストリートとオーバーサイズに振れ、以前の価値観では“ちょっとダサい服”がトレンドに浮上した。2017年春夏シーズンに東京コレクションで初めてショー形式で発表したBED j.w. FORD(ベッドフォード)は、そのトレンドに真っ向から異を唱えた。
“バトル・ドレス・ジャケット”をテーマにしたコレクションは、西洋のテーラードの伝統、常識を切り刻みつつも、とても品があった。2010年のデビュー以来、彼が作る服はシーズンごとに進化しつつも、核の部分は何も変わっていなくて、それはショーを始めてもブレなかった。フィレンツェで見てもミラノで見てもパリで見ても、一目で慎平と分かる服。シーズンごとに新しさが求められるランウェイの舞台で、悪く言えばかわり映えしないことを否定的に捉えていた時期もあったけど、今では逆に尊敬している。ショー形式で見せるデザイナーで、これほど芯がブレない人は世界的に見ても珍しく、それは確固たる美意識があるということ。ランウェイに常に新しいものを求めがちな自分の物差しを修正するキッカケにもなった。
彼の作る服はワークウェアやスポーツウェアを作ろうとも、独特のエレガンスと色気がある。ここ数年、東京の20代の若手が作る服がその方向に振れてきているのは、少なからず彼の存在が影響していると思っている。型数を絞った2021年春夏、2021-22年秋冬は、BED j.w. FORDの軌跡が凝縮されたかのようなコレクション。3年ぶりに日本でショー形式での発表となった2022年春夏は、これまではあまり感じられなかった和の要素が西洋のエレガンスと溶け合い、ショーを始めてから最も進化を感じさせるものだった。新時代の東京エレガンスのトップランナーとして、コロナ明けのパリで品良く暴れ回ってほしい。
▶︎プロフィール
山岸慎平。1984年、石川県生まれ。ジェネラルリサーチを経て、2011年春夏にBED j.w. FORDをスタート。2016年に東京ファッションアワードを受賞し、2017年春夏に東京コレクションに初参加。2018年にピッティ・イマージネ・ウオモでショーを発表。ミラノでの発表を経て、2020-21年秋冬シーズンにパリでゲリラショー形式で発表し話題を集めた。