気鋭のロースターが仕掛ける新拠点は世田谷の“ベークハウス”?
File 074:butter baby(東京・上町)
HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。今回は東急世田谷線の中でも、三軒茶屋や松陰神社前からは少し離れた、スローな時間が流れる世田谷区・上町に降り立った。そんな街の空気とはどこか対照的な、キャッチーな店名を掲げるコーヒー&ベーカリーショップ「butter baby」の正体とは。
Text Takaaki Miyake
パンで伝えたい原体験、サワードウをより身近に

三軒茶屋や松陰神社前の賑わいから一歩離れた、穏やかで、生活の輪郭が感じられる街並みが広がる世田谷区・上町。そんなローカルな空気が色濃く残るこの場所に、ひときわ目を引く存在が現れた。
2025年8月、経堂のロースタリー「Raw Sugar Roast」が新たにオープンしたのが、“世田谷ベークハウス”「butter baby」だ。これまで自由が丘の「amber」や下北沢の「grass」など、個性の異なるカフェを手がけてきた同店だが、今回の新拠点もまた、これまでの延長線上にありながら、まったく異なる表情を見せている。
テーマカラーであるオレンジと、バターを想起させるクリーム色で彩られた外観。さらに「butter baby」というどこか愛嬌のあるネーミングも相まって、思わず足を止めたくなる魅力を放っている。
この場所が生まれた背景には、オーナー・小田政志氏さんの原体験がある。オーストラリアとイギリスで過ごした日々のなかで、毎朝のように楽しみにしていたのが、アーモンドクロワッサンとコーヒーの組み合わせだった。その記憶を東京でも再現したいという思いが、ようやく一つのかたちになったのが「butter baby」だ。
ストアマネージャーの堀江さんが語るように、ここは単なる新店舗ではなく、「Raw Sugar Roast」にとってコーヒーを軸としながらも、その先にある表現を模索する新たな実験の場でもある。
一方で、これまでの店舗とは異なり、あえてローカルな上町という場所を選んだことも、この店の在り方に大きく影響している。イギリスやオーストラリアのコーヒーショップから着想を得ながらも、エッジを効かせすぎることなく、温もりを残した空間。カウンター越しにコーヒーが淹れられる様子を間近で感じられる距離感や、自分たちで手がけたという壁の塗装などの内装からも、その“手作り”を大切にする姿勢が伝わってくる。
その精神は、フードにも色濃く表れている。シグネチャーであるアーモンドクロワッサンをはじめ、ピスタチオのクイニーアマンやパン・オ・ショコラなど、ラインナップはあえて絞り込みながらも、いずれも高い完成度を誇る。ベーカリーとしての軸をしっかりと持ちながら、コーヒーとともに楽しむための設計がなされている。
さらにもうひとつの柱となるのが、オランダ出身のブランディングマネージャーであり、パンの監修も務めるエヴァさんによるサワードーだ。日本ではまだ一般的とは言い難いこのパン文化を、より身近なものとして広めていくため、そのまま購入できるほか、イートインではサンドイッチとしても提案している。
ドリンクに目を向けると、コーヒーは派手さではなく、あくまでパンとの調和を意識したセレクト。加えてコンブチャやクラフトコーラといったドリンクもすべて自家製という徹底ぶりだ。さらに、エヴァさんの母が手がけたオリジナルのマグやプレートが並ぶなど、細部にまでこの店ならではのストーリーが宿る。
週末限定のメニューは2週間ごとに内容が変わるため、訪れるたびに新しい発見があるのも魅力のひとつだ。
コーヒー、パン、そしてそれらを取り巻く空間や文化。それぞれが独立するのではなく、ゆるやかに結びつきながら、この場所ならではの空気をつくり出している。
バターの香りとともに広がる、どこか異国の朝の記憶や感覚。その断片を、この上町でそっとすくい上げてくれる「butter baby」へ、足を運んでみてはどうだろう。
DESTINATION STORES | File 74
バターベイビー | butter baby
住所:東京都世田谷区世田谷1-22-5 山一ビル 1F1B号室
営業時間:9:00〜17:00
定休日:水曜日
https://www.instagram.com/free.butter.baby/
