meanswhile のデザイナーが哲学する The North Face との新プロジェクト
2025.04.15
meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

藤崎尚大 によるURBAN EXPLORATION シリーズが始動

Edit & Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by TAWARA(magNese)

meanswhileミーンズワイル)は、服を“身体に最も近い道具”と捉え、機能性とファッション性の両立を表現し続けている東京ブランドだ。インディペンデントな存在ながら、ランダムに発表するランウェイ形式のコレクションへの評価も高く、アウトドアとファッションを軸にしたプロダクトは海外でも多くのファンを獲得している。

デザイナーは1986年生まれの 藤崎尚大。服飾大学卒業後にアパレルメーカーで経験を積み、2014AW シーズンにmeanswhileを始動した。藤崎がインダストリアルデザイナーのディーター・ラムス(※)、構造家・建築家のバックミンスター・フラー(※)などへの敬愛を明言していることからも分かるように、ファッションデザインをプロダクト哲学的な目線で追求しており、それが各アイテムに深みを与えている。

その藤崎が、2025SSシーズンより、VFグループ(※)のThe North Faceザ・ノース・フェイス) URBAN EXPLORATION (アーバン・エクスプロレーション)シリーズのデザインを手掛けることが発表された。URBAN EXPLORATIONは都会における機能性を追求したラインで、2018年に始動している。

藤崎が手がけたコレクションは残念ながら日本での展開はなく、25SSシーズンにおいては韓国を除いたアジア圏のみでの販売となっているが、今回は藤崎に特別にインタビューを実施し、そのコレクションに隠された深い意図を聞いた。

※ ディーター・ラムス(Dieter Rams) … 1932年生まれのドイツ出身のインダストリアルデザイナー。BRAUN社の名品を数々手がけたことで知られている。
※ バックミンスター・フラー(R. Buckminster Fuller)…1895年生まれのアメリカの思想家、構造家、建築家。1960年代に「宇宙船地球号」という言葉を生み出し、人類の持続可能性を追求した。1983年没。
※ VFグループ…1899年創業の世界最大級のライフスタイルアパレル企業。The North Face、Vans、Timberlandなどを展開している

同じフィールドのデザイナーが起用された理由

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

「The North Face(以下TNF)は、昔からアウトドアアクティビティ、釣りやスノボの時に着る服として愛用していたので、オファーをいただいた時は率直に嬉しかったですね」

そう本人が語るように、藤崎はmeanswhileを始める以前からアウトドアアクティビティに親しんできたデザイナーだ。愛車は国産の大型SUV。現在もデザイン活動の合間にアウトドアライフを楽しんでいる。しかし、自ら“愛用”とも語るように、meanswhileとTNFは部分的に同じフィールドにいるコンペティター(競合関係)でもある。

たとえば街着としてシェルジャケットを買おうと思った際、TNFや他のアウトドアブランドなどの選択肢の他、ファッション性がより強く現れたmeanswhile のシェルも候補に上がってくる。通常こうしたプロジェクトで競合関係にあるデザイナーが起用されることは多くないが、今回はそういう点でも少し異例だ。

「物作りの上ではTNFもmeanswhileもゴールは同じなんです。例えば“防水のジャケット”というプロダクトのゴールがあったとして、出発点から無駄を削ぎ落として真っ直ぐそこに向かうと、アウトドアブランドやスポーツブランドの表現になります。そして、そこを迂回する表現の中にファッション性が出てくると僕は思っています。だから“防水のジャケット”という目的は担保しつつも、辿る道によってデザインが変わってくるんです。僕がmeanswhileでやってきたのはその部分なので、今回のプロジェクトでは、そういう“ツイストした表現”が求められたのかなと思っています」

制約の中にこそ問われるデザイナーの本領

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

本題の前に、少しThe North Faceというブランドについて整理しておきたい。TNFは1966年にアメリカ・サンフランシスコのノースビーチ地区に生まれたショップに端を発する。1970年にオリジナルのマウンテンパーカを発表して以降、アウトドアの機能性を備えたプロダクトはアメリカを中心に広がり、アルピニストからキャンパーまでをサポートするブランドとして認知されて行った。現在ではアウトドアフィールド、スポーツ、そしてファッションの分野においても愛される、アウトドアブランドを代表する存在として君臨している。

TNFはアメリカが本拠地のブランドであることには変わりはないが、主に海外ではVFコーポレーションという巨大なグローバル企業が手がけており、日本と韓国では長年TNFを取り扱って来た株式会社ゴールドウインがその役割を担っている。今回藤崎が手掛けることになったのは、VFグループのThe North Face URBAN EXPLORATIONラインだ。

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION
meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

そうした世界的なメーカーとインディペンデントなmeanswhileの規模は比べるまでもないものの、それでも同じ「アウトドアとファッション」のフィールドにいることは間違いない。meanswhileでも機能素材などは使っているが、藤崎はTNFのデザインをする上で、その選択肢の広さに驚いたという。

「出来ることの幅は全然違いました。TNFは様々な独自技術を持っているし、ロット数をこなして生産できる分、素材も色を選んでイチから作れたり、パーツまでオリジナルを作ることが出来ました。僕ら(meanswhile)はインディペンデントな分、使いたくても使えない素材もたくさんあるという意味では“制約”もたくさんあるんです」

しかし藤崎は、その“制約”の中にこそ面白みを感じながらmeanswhileをやってきたという。

「その制約の中でどうパズルを組み立てるか、どう料理をするかみたいなところにも面白さとやりがいを感じていて。デザイナーというのは、枠組みがあればあるほど自分の力を活かせるし、そこをどう料理していくかが腕の見せ所です。今回その制約は、価格帯やMD的な部分にあったわけですが、それでも無数にある選択肢の中で、かなり自由に作らせてもらう醍醐味がありました」

都市と自然を繋ぐ形と色

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

今回藤崎はTNFの中のラインを作るに際し、TNFのアーカイブや古着を積極的に検証したという。

「元々古着を蒐集して検証するのは、デザインのためのライフワーク的なものとして僕の中にありましたが、今回は意識的にTNFの古着を探し、そのデザイン意図を読み解くようにしました。その中で出会ったものの中から、今回のプロダクトに結びついたものもあります」

発表された2025SSシーズンのコレクションは12型。シェルジャケットとバッグパックが一体でありながら個別でも機能するアイテム、TNFが極地用に開発した名品“ヒマラヤンスーツ”をセパレート可能なツナギとして表現したオールインワン、TNFのマウンテンジャケットをベースにmeanswhieがこれまでアイコン的に使って来た“ジグザグ”テープのディティールを取り入れたアイテム、そして袖などにセパレート可能なジップを取り入れたシャツ、パンツ類もラインナップしている。いずれもTNFらしさ、そしてmeanswhieらしさが融合したプロダクト群だ。

そして今回のコレクションで印象的なのは、カラーパレット。白、グリーン、グレー、そして差し色として印象的なオレンジといった、あまり両ブランドが主力で使われてこなかった色が使われている。ここにこそ、藤崎の独特のプロダクト哲学を垣間見ることが出来る。

「URBAN EXPLORATIONは“都市と自然を繋ぐ”というテーマで物作りをしているので、それを色でも表現したかったんです。グリーンは自然、グレーは都会のアスファルトやコンクリートのイメージ。そこに差し色として使っているオレンジは、都会では道路標識などで注意を喚起部分に使われている色であり、人間にとっては目立つ色なのですが、実は動物には認識されにくい色なんです。ハンタージャケットでよくオレンジが使われているのはその理由で、今回はその“繋ぐ”部分の象徴として、都市と自然それぞれの色味に共通するハイライトカラーであるオレンジをポイントに効かせています」

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

そしてこうしたデザインにおけるカラーセレクトの発想、配色の位置は、藤崎が敬愛するドイツのインダストリアルデザイナー、ディーター・ラムスの影響もあるという。

「僕が彼の作品の中でも大好きなのが、BRAUN(ブラウン)のプロダクトシリーズですが、彼の作ったプロダクトでは、目立たせたい部分に印象的にオレンジが使われているんです」

そう語る藤崎の背後には、ディーター・ラムスがデザインしたBRAUNのオーディオセットが置かれている。これは今回取材場所となった東京・駒沢のmeanswhileのショップで見ることが出来る。

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

“Less, but better” と “More with less“の哲学

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

ディーター・ラムスが発信したデザイン哲学を表現する言葉として、Less, but betterがある。これは「要素が少ないほど美しい」という意味の言葉であり、今でも多くのデザイナーがそれを金言としている。Appleのスティーブ・ジョブスやジョナサン・アイブも、ディーター・ラムスのデザイン哲学に影響を受けたとされており、それがiPodやiPhoneの削ぎ落としたデザインに繋がっているという見方をする人は多い。

そして藤崎はそのディーター・ラムスを敬愛する一方で、もう一人のデザイン界の巨匠の言葉を自らの創作のテーマに据えている。それがアメリカの思想家・構造家として知られる バックミンスター・フラーが遺した言葉、“More with less”だ。これは「最小限のエネルギーや材料、時間で、最大限の効果を得る」という意味で、一見するとディーター・ラムスの”Less, but better”と対をなしているようにも見える。この両者の違いを藤崎はこう考察する。

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

「どちらも出発点は一緒なんです。“Less, but better”は引き算の美学で、『より少ない方が良い』という考え方ですが、”More with less“は僕的には掛け算の美学で、『要素を増やさずに最大化する』みたいな意味に捉えています。ディーター・ラムスも大好きですが、meanswhileではバックミンスター・フラーの”More with less”の発想でデザインしていて、実はそこがTNFにも繋がっていたんです」

TNFのアウトドアプロダクトの中で象徴的なもののひとつに、“ドームテント”というプロダクトがあるが、それはバックミンスター・フラーが提案したジオデシック・ドームから発想を得たとされている。藤崎とTNFは根底の部分で同じ哲学を共有していたのだ。

機能性×ファッションの可能性

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

ファッションにおける機能性の追求は、近年ますます加速している。アウトドアブランドやスポーツブランドのお家芸であった機能素材使いは、インディペンデントなファッションブランドの中でも行われるようになり、そこから新たな発想も生まれている。

meanswhileにも象徴されるように、そのシーンを牽引してきたのは日本のファッションだ。1970年代頃に海外から持ち込まれたアウトドアウェアを“ファッションのひとつ”として捉えたところから始まったこの潮流は、長く日本のファッションに根付き、着こなしや新たなクリエイションによってシーンを拡大して来た。こうした現象の理由を、当事者の一人でもある藤崎に聞いた。

「四季があるとか気候的な理由もあるでしょうけど、やはり日本には洋服の文化がなかったので、色んなものをミックスし、独自の発展をしてきたからのような気がします。僕らの先輩方が土台を創り、それを引き継いでやっている部分もありますが、現在は大手も含めてテックファッションは飽和傾向にあるかもしれません。ただ、それを海外の人たちが逆に“自分達にはなかった文化”として捉えてくれて、また向こうで日本のブランドが評価されたり、海外における新しいテックファッションの潮流も感じています」

近年、街着として作られたウェアにも高い耐水圧や高い透湿性を有したプロダクトは増えている。都市においてはある意味“オーバースペック”ではあるが、藤崎はそこに“文化が成熟する可能性”も感じているという。

「オーバースペックなものを身につけていることで、今度は都会から『このままアウトドアに行ってみよう』とか、行動の選択肢が広がるきっかけになると思っています。そうやって“どちらにも行ける”ことで、また一歩文化が成熟するんじゃないかと感じているんです。僕がデザインを通してやっているのはそういうことだと自認しています。僕も忙しい日々ですが、“フィールドテスト”と称して(笑)、もっと都会と自然を行き来したいなと思います」

藤崎が手がけたThe North FaceのURBAN EXPLORATIONラインは、2025AWシーズンにも新たなコレクションが予定されており、その後も継続の可能性もあるという。日本市場で購入が難しいのはもどかしいが、今後の動向にも注目だ。

meanswhile The North Face 藤崎尚大 URBAN EXPLORATION

Profile

藤崎尚大 | Naohiro Fujisaki

1986年生まれ。服飾大学卒業後に2社のアパレルメーカーにて経験を積み、2014AW シーズンよりmeanswhileを始動。 「日常着である以上、服は衣装ではなく道具である」をコンセプトに、ファッションの持つ表面的で無稽な部分に、道具としての機能を追求したプロダクトを展開する。 2016年に東京ファッションアワード「新人デザイナーファッション大賞プロ部門」において最高位の賞を受賞。2019年にTOKYO FASHION AWARD 2020を受賞。
https://meanswhile.net

[編集後記]
藤崎さんはいつも物静かに穏やかに話をする。その雰囲気は多くのファッションデザイナーとはまた少し異なり、インダストリアルデザイナー的人物を敬愛しているところからも生まれている気がする。今回のTNFとのコレクションは日本での発売はないということだが、藤崎さんのプロダクト哲学が海外でどのような反応を呼び起こすのか期待したい。(武井)