デスティネーション・ストア | File 040
2024.04.26

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 040:DAILY SUPPLY SSS(東京都・池上)

Text Takaaki Miyake
Photography Koichi Tanoue

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 040は蒲田・五反田間を結ぶ3両編成の東急池上線、池上駅が最寄のコーヒーと日用品を取り扱う「DAILY SUPPLY SSS」。

少し“ズレた”日用品店

DAILY SUPPLY SSS

大田区・池上は、歴史的に日蓮宗の大本山である池上本門寺​​の門前町​​として知られるが、おそらくローカルの人以外はあまり馴染みがないエリアだろう。そんな街の中、付近の住宅や薬局が並ぶ通り沿いで一際違った佇まいを放つ「DAILY SUPPLY SSS」には、店主の中嶋哲矢さんが「日用品」と説明するキッチン雑貨や文房具、飲料などが揃う。

「日用品」とは言うものの、店内に並ぶのは大量生産されたモノではなく、デザインされたセンスの良いプロダクトや、作り手の存在を感じさせたりするアイテムばかり。しかもアーティストによる作品までもが入り混じり、明らかに普通の日用品店とは異なる。

そんなセレクトを行う中嶋さんは意外にも大学では空間造詣学科を専攻。しかも卒業後から現在も L PACK. というクリエイティブチームで活動を続け、現代美術の領域で展示やプロジェクトを手がけてきた経歴を持つ。

「L PACK. でも初期から日常と非日常の間に少しのズレを生み出して、それを楽しんでもらうようなインスタレーションを開催してきました。そういったフィルターを通して物事を見ると全てが日用品になり得ると思うんです。例えばですがアーティストの高額な作品だって、ある人によっては毎日見ることで日用品になりますよね」

原点は横浜のスーパーから

DAILY SUPPLY SSS

幅広い意味で日用品を捉える「DAILY SUPPLY SSS」が、最初に店を構えたのは現在の場所ではなく実は横浜だった。当時住んでいた新横浜周辺で中嶋さんはアトリエスペースを探していた際、昔ながらのスーパーマーケットの跡地と巡り合い、その場所こそが「DAILY SUPPLY SSS」の原点である。

「中華街やみなとみらいとかではなく、横浜の中でもあまり知られていないエリアが良かったんです。たまたま見つけたのがその物件で、元々スーパーだった場所なんだからオリジナルの看板を引き継ぎながら、日用品店をやると面白いかもと思って。どの駅からも15分ぐらいの距離だったから、地元の人からも秘境の地って呼ばれていましたけどね(笑)」

当時から独自の視点で選び抜いた意外性のある日用品を紹介し、コーヒーを買いに来た人がアート作品を買うことも度々あったという。

「そのスペースには駐車場もあったので、中古車の販売なんかもやっていました。そういった刺激だったり予想外の出来事だったりを、お客さんも僕らもその頃から楽しんでいましたね」

池上との出逢い

DAILY SUPPLY SSS

そんなユニークな場所で営業を続けていたある日、東急電鉄と大田区が推進するプロジェクトの一環として中嶋さんに声がかかった。

「『池上のまちづくりとなる拠点を作ってほしい』という話をいただいたんです。L PACK. は街と紐づいた活動もやっていたので、それを面白いと思ってくれて。それと過去のプロジェクトでも、しっかりとコミットをしていたのが評価されました。

拠点と言ってもいわゆる会議室みたいなスペースを作っても街は盛り上がらないから、まずは皆んなが集まってコミュニケーションできる場所として、今のお店から通りを一つ挟んだ場所にカフェを作ったんです」

すると次第に横浜のお店とカフェを何度も行き来する日々が続き、パンデミックも重なったことからまちづくりのプロジェクトの継続は難しくなっていったという。

「池上ではやり切った感覚がなかったし、なかなか周辺に新しいお店もできなくて、それなら『自分たちでやろう』と横浜から移転することを決めたんです。本当はカフェと物販の二つのスペースを同時進行で考えていましたが難しくて、コーヒーの焙煎機能も今の店舗に移しました」

心地のよい街へ

DAILY SUPPLY SSS

そうして新しく2022年に移転オープンしたのが現在の「DAILY SUPPLY SSS」だ。

「プロジェクトとしては終わったので、必ずしもまちづくりに貢献する必要性はないですが、少なくとも自分達が過ごしていて気持ちの良い地域にしていきたいですね。コーヒーも買えることで気軽に入ってきてくれる人も段々増えてきましたし、そこからコミュニケーションが始まったり、知り合いの作家の作品を手に取ってくれたりするようになりました」

中嶋さんは横浜時代から自ら焙煎を続け、深煎りから浅煎りまで幅広いコーヒーを提供している。販売するコーヒー豆のパッケージはかなり目を引くデザインだが、これは視覚的に一瞬で説明できるようにという、そのアプローチも斬新だ。

DAILY SUPPLY SSS

月に一回ほどのペースで写真やアートなど様々な展示を開催しながら、三年目を迎えた「DAILY SUPPLY SSS」では今後オリジナルのプロダクト制作も予定しているというからますます楽しみだ。

DESTINATION STORES | File 40
デイリーサプライエスエスエス | DAILY SUPPLY SSS
東京都大田区池上3-41-3
営業時間:12:00〜18:00
定休日:日曜・月曜・火曜日
https://www.dailysupplysss.net/
https://www.instagram.com/dailysupplysss