抽象画のように自由で、洗練されたデザイン。ネイリストaya aokiが施すネイルアートは、その場限りの一点モノ。ともすれば女性だけではなく、男性であっても楽しめるような、なんともクールな“作品”なのだ。一般的なフェミニンさ、可愛らしさとは真逆をいく彼女のネイル人気は、Instagramを始めとするSNSを中心にどんどん広がっている。プライベートサロンのある群馬と東京の2拠点で活動するaya aoki。彼女のネイルの魅力とは?

── ayaさんのネイルを初めて見たとき、いわゆる一般的な〈ネイルアート〉にある分かりやすい女性っぽさが一切感じられなかったんですよね。ユニセックスなというか……もちろん、女性らしい美しさはあるんですが、その部分への括りがあまりないような印象を受けました。
「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です。私のところにいらしてくださるお客様が、まさにジェンダーレスな、時代に合ったファッションやトレンドにアンテナを向けつつも、その上で変わらない自分らしいスタイルを持たれている方が多いんです。そういう方が自分を表現するツールの一つに、私のネイルもなれたらと思ってやっているんです。洋服やアクセサリーを選ぶのと同じように、掛け替えのない1点ものを選ぶような感覚で、ネイルを選んでもらえたら、と」
── 実際にネイルしていただくときも、なんていうかライブペインティングみたいな感じですよね。
「それに近いかもしれないですね。少し語弊があるかもしれませんが、誤解を恐れずにいうと、私のネイルってアート自体には深いコンセプトはそこまでなくって。ネイルをするお客様と対面してご自身の雰囲気やファッションを見て、ヒアリングして、初めてアートを頭の中で構築するんですよ。だから本当に即興に近い形で施術していて、基本的にはあらかじめ決められたアートは作らないようにしています」
── たしかに、ネイルチップはあっても全くそれと同じにっていうふうにならないですよね。その人に合わせてカスタムしていくような、自由な感じ。現在のようなネイルアートの作り方に至ったのはどのような経緯からなんでしょう。
「もともとサロンで働いている時から、決められたアートの中からチョイスができて、それを常に変わらないクオリティで提供できるというのももちろんすごいことだと思いつつ、同時に自分の中ではすごく違和感を感じていたんです。お客様一人ひとり、雰囲気もファッションも様々なのにネイルは同じ。もっとその人に合うネイルってできないのかな?と思って。そこからいろいろと模索していき、今の即興スタイルに行き着きました。
細かくいろいろ描くわけではなくて、色のバランスを見ながらキャンバスみたいに、筆一本でサッと塗っていく。そういう道具の使い方をするからこそ、スピード感のあるネイルを提供できる。それも喜んでいただけているところなのかもしれません。お客様もなんとなくのイメージをお話ししたらあとはお任せしてくださる方が多いですね」
── 東京ではどのような営業のスタイルを取られているんでしょうか。
「都内ではいわゆるネイルサロンという箱を持たずに、アートディレクターやデザイナー、イラストレータ、映像作家が共同で運営している小さなシェアオフィスの中にサロンスペースを構えるという形を取っているのと、カフェやギャラリーなどでイベントがある際に、そちらに呼んで頂いたりしています。私のサロンスペースには私を表すものを置かせてもらっているんですが、この横顔のイラスト(写真)、私のアイコンなんです。友人のデザイナーが描いてくれて、イベントの時も看板代わりにこれをテーブルに置いて目印にしています」
── シェアオフィスにネイルスペースという形態も珍しい。普通に間借りされたとか、そういうことですか?
「いえいえ。自分の営業形態を考える上で、世の中に数多く存在するネイルサロンとの差別化を図りたいと思っていたのと、今後の自身のセルフブランディングをしていきたいなと感じていて。あと、かっちりしたサロン形式ではなくてお客様と距離感が近いサービスを提供したいということも、常々思っていたんですね。そして最後に、私の家は群馬なので、東京で営業をするためのコストバランス。これもとても大切で。それらをどうまとめて実現していくべきか、セルフブランディングの重要性を考えている時に出会ったのが、今サロンを構える「LAUNDRY share space」のメンバーでした。彼らはアートディレクターとして活動しながら、シェアメンバーとユニットを組んで、ファッションブランドや企業のブランディングも手がけていて。私の今後のブランディングについて相談しているうちに、うちのオフィスでサロンを開いてみたら? と提案してくれて、今に至ります」
── 本当に気持ちのいい場所ですよね。実際に始められていかがですか?
「まず自身のブランディングの相談をしながらネイルサロンとしても運営ができる。こんないい環境はないなと思います。そして、シェアオフィス自体の作りも理想的。内装はミニマルでプレーン、周辺環境は静か、路面で明るく、入りやすい。奥ではデザイナー達が淡々と仕事をこなしている中、こちらはお客様と会話しながら施術をして。そのバランスがいい意味で緊張感がありすぎず、お客様からもリラックスできると好評です」
── 場所をあえて一つのところに構えずに営業されているのは、どうしてですか?
「都内でサロンを運営して利益を出していくことって、当たり前ですがとても大変だと思います。その現状維持や売り上げを重視するあまり、クオリティが下がったりお客様とのコミュニケーションが疎かになってしまうことだけは、避けたかったんです。場所をうまくシェアできれば圧倒的にコストが下がるので、なるべく低価格でアートが提供できる。これがとても重要でした」
── ayaさんのデザインを見ていて、これ男性がやってもよさそう、と素直に思ったんですがメンズネイルもやられているんですか?
「普段メンズネイルの提案はしていないんです。でもメンズであってもアクセサリー感覚というところは同じかなと思います。例えばタイをするような特別な日にドレスアップの一環として、皆で同じ時間を共有するパーティやイベントみたいな空間であれば、遊び感覚でトライしやすいんじゃないかなと思います」
── 男性がネイルをする場合って、女性以上にバランスがとても重要になってきますよね。
「本当にそうなんですよね。わざとらしくなく仕上げるには、無骨さは残しつつ繊細さを出すのが良いと思います。全指じゃなくて1~2本に、ポイントで取り入れるのがいいと思います。悪目立ちしてしまうのは避けたいので、施す指をどこにするかしっかり考えたほうがいいですね。例えば利き手の親指か人差し指。親指は、名刺や何かものを渡す時に必ず見えるので周りの目に触れる機会が多いと思いますし、人差し指は例えばメニューを指差すなど、ふとした時にさりげなく目に入るので」

── あれ?というくらいのさりげない感じがよさそうですよね、男性の場合は。
「ですね。目に入るか入らないかくらいの感じでさりげなくアートを纏っているのはとてもクールだと思います」
── aya aoki nailのアート、真似してみたいという人も多そうですが、これからの季節におすすめの色やプロダクトはありますか?
「aya aoki nailに関しては特に季節ごとの流行りがあったりするわけではなくて、その時々のマイスタンダードから、足し引きしてデザインのテイストを決定しています。なので、特定のおすすめカラーやプロダクトというのはないのですが、今気に入っているネイルカラーは、多種多様なブラウンです。定番からメタリック、くすみブラウン、シルキーなブラウン、薄くてグレーがかったブラウンなど。あとは、肌と同一化するようなベージュです。それとネイルアートを面白くするのにおすすめの素材は、どこにでも手に入るアクリル絵の具。指でポンっとのせたり。マットなものを選ぶのがポイントです。ネイルの質感が無機質になり、欠かせないアイテムの一つですね。もしご自分で取り入れるなら白とゴールドがトライしやすいと思います。ほんの少量の黒も全体のバランスが取れるのでいいと思います」

ayaさんが今、注目しているというブラウンのネイルカラー。
ネイルカラー ノワールシリーズ Farida ファリダ ¥6,900
問:クリスチャン ルブタン(化粧品)
tel:0120-449-360
www.christianlouboutin.com

アディクション ザ ネイルポリッシュ 010Cマイバレンタイン ¥1,800
問:アディクションビューティ
tel:0120-586-683
http://addiction-beauty.com/
── ayaさんの感性の中の、ネイルアートのインスピレーション、デザインのヒントみたいなものはどういうところにあるんでしょうか。
「そうですね。……私の考えるネイルアートとは、普遍的でありながらどこか特別なもの。そのインスピレーションは、すごく何気ない、普段の生活の一部だったりするんです。雨が降る直前の濁った空、濡れたアスファルトと乾いたアスファルト。水たまりに映るビルや影、壁についた少しの汚れや錆びた鉄。普通だったら見過ごしてしまうような儚いものが、好きなんだと思います。そういう“儚いもの”の美しさをネイルアートで表現していき、それが、お客様の特別なものになったら嬉しいです」
── 濁った空や壁の汚れや錆びた鉄にインスパイアされる、っていうネイリストさんて、なかなかいないような気がする(笑)。まさに、感性なんだなと。
「ネイルは、嗜好品。だからこそ、同じクオリティで同じアートを提供することが求められていると思いますし、それが必要だとも思うんです。でも、不確かなクオリティに私はとても惹かれますし、そういうものの必要性を感じています。私のデザインには、再現性がない。全く同じものは、二度と作れない。だからこそ、そこに付加価値や醍醐味を感じていただけたら。唯一無二のネイルアートをもっとたくさんの方に楽しんでいただけたら、と思っています」
photograph: Tsukasa Nakagawa
text & interview: Kei Yoshida
aya aoki (instagram kamiise)
ネイルアーティスト。
アパレル業界を経て、ネイルアーティストへ。
https://www.instagram.com/kamiise/
現在は、群馬での完全予約制のプライベートサロン、東京では、目黒・不動前のシェアスペース「LAUNDRY share space」内でネイルサロンを不定期で営業中。カフェやギャラリー、イベントスペースなどでも出店。
ファッション業界、ビューティ業界とも繋がりが厚く、独創的なアートでセレクトショップやカフェなどのイベント、ワークショップまで幅広く活動している。最近では、ナチュラルコスメブランド「shiro」の17AWネイルアートの提案など活躍の場を広げている。
東京サロン
LAUNDRY -share space-
〒141-0031 東京都品川区西五反田3丁目13−21 101
https://goo.gl/maps/tuJtvkXBKMM2
群馬サロン
群馬県伊勢崎市
以降詳しい住所については、ご予約いただいた際にお伝えいたします。