
"South London"というゾーンは今、再び燃えている。インディーシーンではFat White Familyを筆頭にTrash Mouth勢がグロテスクやスカムをキャンプしたようなスタイルを作り、ShameやGoat Girlといったさらに新世代のバンドが数多く生まれ、グライムシーンではStormzyやNovelist、Section Boyz、Daveといった連中がヒットを飛ばしている。
そんなSouth Londonの中で、周囲に流されることなくマイペースに活動してきたのがSamphaというシンガーだ。まだファーストアルバムを出していないシンガーにもかかわらず、誰の楽曲に参加しても、その独特の歌声で誰もがすぐにSamphaだと分かる強烈な個性。The XXやFKA Twigsをヒットさせて来たYoung Turksもよくここまで我慢したものだと思う。そして、ようやくリリースされた本作は異常なまでにコンセプチュアルなアルバムを作るでもなく、派手なプロモーションやブランディングで煽るわけでもなく、これだけ待たした挙句、何事もなかったようにサラッとリリースされているのだ。
ピアノやエレクトロニクス、ハープやKoraのようなシンプルな音色にソウルやアンビエント、アフロなど多くの要素を入れながらも、余分なものは削ぎ落とした伴奏にエモーショナルな声が乗るアンビエントソウル。アンビエントの上でカラオケ状態のようなノンビート・トラックなどもあるのにもかからず、どこかファンクであるという不思議な感覚を味わうことが出来る。ニューオリンズ辺りを思わせるような隙間多めのタメの効いたビートに印象的なコーラスが隙間を埋めるM2、曲名の通りKoraというアフリカの楽器を取り入れ土着的なリズムを聴かせるM3などアフロを忘れないところもSamphaの魅力のひとつだろう。スタイリングに黄色や緑といった色を多用するところにもそういった部分が見て取れる。AdidasやPalaceのようなスポーツウェアの着こなしや、ビデオにAdwoaが出演していたり、Frank Lebonが写真を撮ったりしてるところなんかもブリティッシュらしいストリートが見えて、共感を呼ぶところではないだろうか。盟友のThe XXはビデオでAlasdair McLellanを起用していたが、こういったところはYoung Turksらしいセンスと言えるかもしれない。
Laura Grovesがゲスト参加しているところなんかもインディーファンとしてはニヤリとしてしまうところだろう。SamphaはLaura GrovesをリリースするレーベルであるDEEKのボスBullionとも共演をしているし、そのBillionとLaura GrovesのユニットNauticにもゲスト参加している。ビッグスターだけでなく、XL~Young Turks~DEEKを中心としたインディーシーンとの繋がりもとても魅力的だ。KanyeやDrakeといったアーティストとの共演でSamphaを知り、Samphaからインディーアーティストを知っていく。そういったブラックミュージックやセッションミュージシャンらしい辿り方を楽しむことができる。
text: Masahiro Kato