ドイツの監督ヴィム・ベンダースによる、ひとつの事故に関わった人々の、それぞれに辿る運命を描いた人生ドラマ。アクションはまったくなく、日常劇に3Dを用いているのが不思議な効果を生む。
舞台はカナダ、ケベック州モントリオール郊外。作家のトーマス(ジェームズ・フランコ)は、なかなか筆が進まず苦しんでいた。恋人サラ(レイチェル・マクアダムス)との関係もうまくいっておらず、彼女の優しさを知りながらも、サラが過干渉気味なため避けて暮らしている。
ある大雪の日、トーマスの車の前に突然、坂を滑り降りてくるものがあった。急ブレーキをかけ、トーマスが恐れながら道を確認すると、ソリに乗った幼い少年が、車と接する直前で固まっていた。怪我もなく、ホッとしたトーマスがソリの跡を辿り、少年を自宅へ送り届けたところ、母親のケイト(シャルロット・ゲンズブール)は息子の姿を見て、思いがけず半狂乱となり外へ駆け出していく……。
トーマスも見落とした、誰も責められない悲劇。運が悪かったとしか言いようのない出来事。だがどうしようもなかったとはいえ、悲劇自体は当事者たちの心を蝕み、自分を責め、他人を責めて取り返しのつかない喪失に、苦しみ続けるはめとなっていく。そして映画は思いがけず長きに渡って彼らの姿を追う。トーマスの周囲から消えるサラ。そして彼の数年かけた小説は、高い評価を受ける。その間には新しい出会いも訪れる。だが彼の変化に対し、ケイトはいつまでも過去に固執して泣き、悲しみのどん底にいる。
トーマスの思索的な小説は、彼の経験や想像が交じり合って生まれる。事故は彼を苦しめたが、彼の創作物に深みを与え、新たな境地をもたらした。彼は図らずも他人を巻き込み、苦痛を与えることで、傑作と評される物語を生み出したのだ。トーマスは無自覚だが、明らかに平凡な生活の中では、自分の殻にこもる気配を放つ。彼を愛し、または必要とする人々はそれを感じ取り、トーマスに対し不安を覚える。トーマスも故意にそうしているわけではないが、他人を傷つける彼の行動の結果に対し、「僕は作家だ」としか言えない。
ケイトとの細く長いつながりも、成り行きが予測できないものだ。トーマスが情緒不安定な彼女の家を訪れたシーンで、深夜だった部屋に突然暁光が差し込み、部屋はオレンジ色の光芒が、一体どこが光源かわからぬ不思議な拡がり方で照らされる。この照明の演出には心を奪われた。
トーマスは尋常ではない経験を基に、溢れだす言葉を形にした。彼は奇妙な出来事や痛ましい経験を、進んで呼び込もうとするわけではないが、起こったものは手繰り寄せる。のちにトーマスが、成長したソリに乗っていた少年と、再び出会うシークエンスが登場する。もはやトーマスより背が高い青年だ。ここから映画は非常にサスペンスフルになるが、その一連の出来事も小説家は吸血鬼のようにすすり、次の小説としてお目見えするのだろう。
text: Yaeko Mana
『誰のせいでもない』
監督:ビム・ベンダース
製作:ジャン=ピエロ・リンゲル
製作総指揮:ジェレミー・トーマス/フセイン・アマーシ/アーウィン・M・シュミット
出演:ジェームズ・フランコ/シャルロット・ゲンズブール/マリ=ジョゼ・クローズ/ロバート・ネイラー/パトリック・ボーショー
配給:トランスフォーマー
11月12日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー!
http://www.transformer.co.jp/m/darenai/
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