90年代初頭の東京クラブシーンの熱狂と、そこに集う人々を写真家・藤代冥砂が撮影した写真集『90 Nights』が発売された。
芝浦GOLD、西麻布Space Lab YELLOW、渋谷CAVE、青山MANIAC LOVE……個性的なヴェニューのオープンによって、盛り上がりを見せ始めていた90年代初めの東京クラブシーン。当時、写真家としての道を歩み始めていた藤代冥砂は、愛機のコニカBig Miniを片手に、そこで出会う人々やパーティーの様子を、刹那で享楽的な雰囲気とともにフィルムに収めていった。
それから約25年後、当時の写真の数々は『90 Nights』という一冊の写真集にまとめられ、米山奈津子による美しい装丁のもとリリースされることとなった。冒頭で名前を挙げたクラブは今やもう存在しないが、ぺージをめくるとそこにはパーティーを楽しむ多くの人々とともに、現在も活躍しているDJやクリエイターの若き日の姿も見える。90年代後半〜2000年代にかけてクラブカルチャーが一般化する以前、クラブという場所は、単に音楽を楽しむだけでなく、様々な人々が出会うサロンとして機能していたことがわかる。
淡々と写真を並べたシンプルで潔い構成と、被写体への距離感も含めた藤代のクールな視点が、“昔は良かった”という過去への美化ではなく、現代を生きる写真家としての矜持を感じさせる一冊となっている。
text: Tetsuya Sato
写真集『90 Nights』
藤代冥砂 著
アートディレクション:米山奈津子
¥2,800(A5判、304ページ)
出版:トランスワールドジャパン
www.transworldjapan.co.jp