
『日本のフェミニズム since 1886 性の戦い編』/北原みのり 責任編集
ハリウッドの大物プロデューサーによるセクハラ問題に端を発する「MeToo」運動と、性的暴力、差別に対して沈黙している時間はもう終わったと訴える「Time’s up」運動が大きな広がりを見せ、ゴールデングローブ賞では黒い衣装、グラミー賞では白いバラのかたちで出席者が運動の支持を表明、そして運動に関連する発言を展開し、話題となっている。
一方で「しつこい誘いや不器用な口説きを、性犯罪と同一視するのは間違い」だとカトリーヌ・ドヌーヴを含むアーティストやジャーナリストなどがルモンドに公開書簡を送ったことも話題となった。国や文化、宗教の違いによって運動への様々な視点が浮かび上がってきている(ハフィントン・ポスト日本版【「MeToo」VS.「ドヌーブ」があぶりだした米仏の「深い乖離」--西川恵】)。
欧米を中心にそうした運動と論争が起こる中、慰安婦問題やAV出演強要、少女売春などの話題が毎日飛び交う日本では、フェミニズムにおける性の尊厳・権利獲得の戦いは何を巡るものであり、どんな経過を辿って現在に至るのか、そして今なお存在する問題とは何なのか、1886年から2017年までの日本の「性」をめぐるフェミニズムをまとめ17年末に緊急出版されたのが本書。今まで多く語られてきた「青鞜」やウーマンリブ、労働雇用などについてではなく、廃娼運動、リプロダクティブ・ヘルス&ライツ、レズビアン運動史、AV内の性暴力といった「性」に焦点を絞った構成で、今まさに読むべき基本的な情報と知識が的確にまとめられている。
フェミニストである作家の笙野頼子や柚木麻子、松田青子のインタビューやエッセイは、長くないテキストであるが、それぞれが作家として何を考え、物語として描いてきたのか切実で正直な声があった。柚木によるシスターフッドと小説家としての覚悟には、この作家をこれからも信じていこうと思うに足る、静かだが強い思いと願いが滲んでいる。
『日本のフェミニズム since 1886 性の戦い編』
北原みのり 責任編集
河出書房新社
¥1,200
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309248370/
山口博之(やまぐち・ひろゆき)
1981年仙台市生まれ。立教大学文学部卒業。大学在学中の雑誌「流行通信」編集部でのアルバイトを経て、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。06年、選書集団BACHに入社。様々な施設のブックディレクションや編集、執筆、企画などを担当し、16年に独立。ブックディレクションをはじめ、さまざまな編集、執筆、企画などを行ない、三越伊勢丹のグローバルグリーンや花々祭などのキャンペーンのクリエイティブディレクションなども手がける。
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連載「いま読みたい、旬の本」
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