いま、世の中を面白くする人たちは何にハマって、どんなライフスタイルを送っているのだろう? ディープな趣味を持つクリエイターたちの個性的な暮らしや、カルチャーに敏感な人が足繁く通うショップ、そして、毎日のくつろぎタイムに欠かせない“通好み”のテレビ番組を大調査。前編では、熊谷隆志や吉井雄一&オオスミタケシといったクリエイターたちが「今ハマっているもの」を特集。
Part.1 LIVING IN CRAFTWORKS
熊谷隆志流「クラフトマニアの理想のリビング」
photo: Takehiro Goto text: Hiroaki Nagahata
自身がディレクションを手がけるショップCPCMにて、ファッションと同じ感覚で“いま注目すべきクラフト”を大々的に展開しているスタイリスト・熊谷隆志。ここでは、こだわりの詰まった理想のリビングを熊谷流にスタイリング!

くまがい・たかし/スタイリスト、フォトグラファー、クリエイティブ・ディレクター。
── まず、クラフトに魅了されたのはなぜですか。
「最初のきっかけはよく覚えていないんですが、洋服と同じで、自分の感覚で何となく買い始めたら、あっという間に大量に集めてしまったんですよね」
── 今回の部屋は、まさに熊谷さんの個性がそのまま表れた世界観に仕上がっていますね。
「僕のアトリエも、ヴィンテージのイームズ ④ を中心に、シープスキンのファー ③ や、古いアフガニスタンのラグ ⑧ をアクセントに使っているので、確かに似ていますね。それと、僕はよくLAに買い付けに行くんですが、その時に見つけたLA在住のアフガニスタン人アーティストのクッション ② も最近のお気に入りです」
── まずはイームズを中心に据えるということですが、こんなに状態の良いヴィンテージは貴重です。
「このチェアは、特にコレクターが欲しがるアイテムですね。ただ、僕はイームズの熱狂的なファンというわけではなく、それだけで揃えることはありません」
── また、テレビ前の陶器の存在感がこのリビングの雰囲気を特別なものにしていると思います。
「これはスタン・ビターズの陶器 ① で、中でもサイズが大きい方。彼は西海岸のカルチャーを掘っていくと必ずたどり着く作家で、アメリカのアーティストの家にはスタン・ビターズの作品が置いてあることが多く、僕もそれに刺激を受けました。現行品のレプリカは出てくるんだけど、ヴィンテージをきちんと揃えているお店は少なかったから、それなら僕のお店(CPCM)で本格的に取り扱おうと。本当は土を入れて使うんだけど、もったいなくて」
── 熊谷さんが好きな部屋の条件とは?
「好き嫌いはないですが、個人的には、イームズみたいなオーセンティックなアイテムに、敷物などでエスニックなデザインを合わせることが多いですね」
── 最後に、クラフトの世界へはどこから入っていくのがオススメですか?
「最初に買うならポットが良いと思います。それこそケヴィン・ウィルス ⑥とか、日本では知らない人も多いしオススメです。器とか食器から入って、無理しないほうがいい。そもそも、作家のものとか、ヴィンテージとか、生活に必要ないじゃないですか。クラフトという定義だって曖昧だし。だから、自分が好きだと思うものを買えばいいし、できるだけ気楽に考えてほしい。と言いつつ、僕は最初から高い値段のものを買っていましたが(笑)」

① 陶器:【左】1960’s Stan Bitters Thumb Pots/¥198,000(CPCM) 【右】1962’s Stan Bitters Thumb Pots/¥158,000(CPCM) カルフォルニアで50年以上のキャリアを誇る作家。代表的な作品は“バードハウス”。
② クッション:【左】Vintage Cushion/¥128,000(CPCM)【右】Vintage Cushion / ¥120,000(CPCM) 熊谷氏がLA在住のアフガニスタン人アーティストのアトリエにバイイングへ行った際に発見してCPCMでの取り扱いが決定。
③ ファー:BLACK SHEEP/¥32,000(CPCM) シープスキンをこよなく愛する熊谷氏も「ここのブランドのクオリティは特に高い」と太鼓判を押す。
④ チェア:1970’s Eames Lounge Chair/¥1,480,000(CPCM) イームズの希少なヴィンテージラウンジチェアは、ここまで状態の良いものとなるとさらに珍しく、この価格でも手に入れる価値はある。
⑤ 木のオブジェ:【奥】Bird House/¥12,000(WIND AND SEA)【手前】Wooden Craft/¥7,800(WIND AND SEA) 熊谷氏の“ホーム”ともいえるショップWIND AND SEAで取り扱われているバードハウスとウッドのオブジェ。
⑥ 陶器:【左】West Germany 60’s Flower Pod/¥61,000(CPCM)【中央】West Germany 60’s Flower Pod/¥61,000(CPCM)【右】West Germany 60’s Flower Pod/¥61,000(CPCM) 熊谷氏が入門編にオススメするヴィンテージの西ドイツ製ポット。
⑦ チェア:GARZA MARFA Natural Leather Orange/¥229,000(CPCM) アートやデザインに深い造詣のあるテキサス在住の夫婦が手掛けるブランドのアイコン的チェア。
⑧ ラグ:Vintage Rug/¥110,000(CPCM) アフガニスタン製と推定される大判のラグ。
Part.2 GENTLEMAN’S PLAY
吉井雄一&オオスミタケシの「極私的トレンド」
photo: Shoichi Kajino text: Hiroaki Nagahata
ファッションから音楽、ドラマ、スイーツまで。MR.GENTLEMANのデザイナー二人が“いまの気分”を語り合う。

左:よしい・ゆういち/MR.GENTLEMANデザイナー、CITYSHOPクリエイティブディレクター。
右:おおすみ・たけし/MR.GENTLEMANデザイナー。
── 吉井さん、オオスミさんのルーツといえば音楽ですよね。お二人の共通項といえば何でしょうか。
吉井雄一(以下:Y)「R&Bとクラブ音楽かな。僕がポップ、オオスミさんがハードコア担当という感じ」
オオスミタケシ(以下:O)「だから、その間みたいな音が見つかるとよく情報交換しています。具体的に言うとトロ・イ・モア ①とか」
Y「音を紹介し合うのは昔からの習慣だから、これがなくなるのは、本当に仲が悪くなった時かも(笑)」
── 最近、二人で盛り上がった音楽の話題といえば。
Y「やっぱりフランク・オーシャン ②だよね。音楽どうこうよりも、ブランディング、宣伝の仕方がとてもいまっぽくてすごくクールだった」
O「僕は『アルバムが出た!』という吉井さんからの電話で、日曜日の朝8時に起こされました(笑)」
Y「40代半ばでそんなことしてるんですよ(笑)」
── リアルタイムを共有するというのが、現代のライフスタイルの特徴なのかもしれませんね。
Y「その瞬間、いかにリアルであるということが大切だと思います。つまり、共感ですよね」
O「デザインの過程でも、時代の中で自分たちが感じることに正直でいたいという話はよくしますね」
── それでは、ファッションで同じような刺激をもらったことはありますか。
O「CMMN SWDNというスウェーデンのブランドは、空気感が好きでカラーも美しくて、毎シーズン楽しみにしています」
Y「音楽も、ファッションも、飲食も、根底のヴァイブスが似ていると、『おっ!』と思います。表現方法は違えど、それをやる意味がわかるというか」
O「ファッションのニュースでは何かあったっけ?」
Y「カルヴァン・クラインをラフ・シモンズが手がけることは、マスなブランドがエッジーな才能を起用したという点では、面白いクロスオーバーじゃない?」
── 家で過ごす時間が長いというお二人ですが、特に深くコミットしている映画やドラマはありますか。
Y「グレイズ・アナトミー ③ は2周したって言ってたよね。シーズン12くらいまであるのに(笑)」
O「医療ドラマなんだけど、例えば瀕死の患者の“ケガ”をフィーチャーするわけじゃなくて、それに対処する医者の感情を絵で捉えているのが素晴らしい」
── 吉井さんは自身が手掛けるお店で飲食も展開していますが、お2人はよく一緒に食事に行かれるんですか。
Y「二人で週に3回打ち合わせがあるんですけど、ご飯を食べずに帰ると気分が荒むから(笑)、よく行きますよ。ただ、時間が遅いので夜10時以降に開いているお店に限られてしまう。最近は、幡ヶ谷の『マルイチ』という焼肉屋さんによく行きます。また、最近知り合いからよく話を聞く学芸大学のヒグマドーナツ ④も気になります。北海道の素材だけを使ったドーナツらしいです」
O「結局はいつも甘いものを食べるよね」
Y「結局ね。デザートを食べないと食事が終わった気がしないから(笑)」

① トロ・イ・モア:2010年のアルバムデビュー以降、チルウェイヴ〜R&B〜ファンクを華麗にサーフするSSW。
② グレイズ・アナトミー:2005年からアメリカで放映スタートした医療ドラマ。シーズン12がWOWOWで放送中。
③ フランク・オーシャン:現在29歳のR&Bシンガー。今年8月、全世界待望の新作『Blonde』をゲリラリリース。
④ ヒグマドーナツ:フェスやイベントで話題を呼んだ北海道産ドーナツが今年6月に学芸大学で実店舗をオープン。
ADDICTED TO…
クリエイターに聞く「偏愛・溺愛・寵愛グッズ」
photo: Shoichi Kajino text: Ryu Nakaoka
我が道を行く各界クリエイターが蒐集した趣味の品々や、毎日の必須アイテムにフォーカス。こだわりの愛用品からその暮らしぶりを垣間みる。

美容編集者・猪狩幸子 × 安心のインナーケアサプリ
仕事上、化粧品は新作を試さなければいけないので、インナーケアはナチュラルで安心できる同じものをずっと使っています。普段は基本グルテンフリーの食生活なのですが、海外に行ったらパスタとかパンとか食べたいじゃないですか(笑)。好きなものを食べながら快適に過ごしたいから、腸のバランスを整える漢方や、糖質の吸収を抑える食物繊維、疲れにくくなるための鉄分、肌の調子を良くするコラーゲンドリンクが、私の定番。
HACCIのドリンクは、コラーゲンとローヤルゼリー配合。「the Fiber」(食物繊維)と「the Fe」(鉄分)は、高濃度の医療用サプリメントブランドTakako Styleのもの。PLANTOLOGYの「INNER CLEANSE」は、整腸効果がある漢方ハーブサプリメント。
いがり・さちこ/雑誌や広告の編集のほか、コンサルタントとしても活躍。

愛猫家エディター・服部円 × デザイン性重視の猫グッズ
「猫」と名の付くものにはうるさいのですが(笑)、日本で売っている猫グッズはファンシーなものが多くてイマイチ。猫用とはいえ、やっぱりデザイン性が大事です。うちの愛猫・スカイは、お洒落なブラシで毛づくろいして、海外で買ったポップで可愛いおもちゃで遊んでいます。ただ、猫って気まぐれなので、買ってきたものが気に入るかわからないし、飽きるのも早いんです。でも、気に入ってもらえるか考えたり、集めたりするのが楽しいです。
猫の毛の日常的なケアには、ドイツのブラシメーカーREDECKERの猫専用ブラシ。イタリア国旗のようなカラーリングのラバーブラシは、大阪のメーカーKESSIのもので、毛が生え変わる時期用。動物のおもちゃはフランスで、革の猫じゃらしはドイツで購入。
はっとり・まどか/編集者。WEBマガジン「ilove.cat」主宰。

パリジャン・梶野彰一 × “ジャケ買い”の自然派ワイン
僕がナチュラルな原料・製法のワインしか飲まなくなったのは、ブドウの果実味を強く感じられて、単純においしいから。ボトルを選ぶ際には、「ジャケ買い」が多い。インディペンデントな生産者が多く、エチケットのデザインがオシャレだったり、名前が言葉遊びや詩的だったりして、そのセンスが好きだと、たいていは味も自分好み。生産者(=プロデューサー)の名前や人脈を頼りに、レコードのように「ディグる」のも楽しみです。
左2本は「桜の季節」、「天使のためのワイン」という名前。葉に人が乗った画はモーリス・シネによる。右端の名前は、「犬(chiens)は吠えるがキャラバンは進む」という諺を「シュナン(Ch’nins)※を飲むが……」ともじっている。
かじの・しょういち/パリを愛するフォトグラファー、ジャーナリスト。

自転車屋・中津川吾郎 × “オーバースペック”自転車
昔から古いBMXが大好きで、趣味が高じて自転車屋をはじめました。気づいたのは、プロが使う競技用の自転車のパーツってものすごく格好いいということ。ファッションでも、ゴアテックスとか、日常生活には過剰なスペックのアイテムを取り入れたりしますよね。そんな感じで、近所で乗るための自転車をあらゆるジャンルの最高のパーツで「スタイリング」しています。チープなハンドルや味のあるレザーのサドルは「ハズし」ですね。
競技用自転車パーツを基本に、クラシックなレザーのサドル、ママチャリ用ハンドルを組み合わせた自作の自転車。チタンのパーツを多用しているところがポイント。日々パーツを取り替え、アップデートしている。
なかつがわ・ごろう/池ノ上のMIN-NANO、原宿のTOXGOの二店舗を経営。。

アーティスト・倉石一樹 × 親しい作家の現代アート作品
20歳前後の頃にNYでグラフィックデザインの勉強をしているとき、現代アートを参考にしていたんです。それで興味を持って、ダミアン・ハースト初期作品のお皿を200ドルくらいで買ったのが、アートを集めるようになったきっかけ。それから、ファッションの仕事でアーティストと知り合うようになり、センスが近い人の作品を買ったり貰ったりして集めています。生きているアーティストは、直接コミュニケートできるところが面白い。
アメリカ国旗はカリ・ソーンヒル・デウィットの作品。墓石型の花瓶はカリと倉石の共作。抽象画やガスボンベ、バッグ、缶バッジのアートワークはルーカス・プライス。写真作品は上が東信、下が荒井俊哉。
くらいし・かずき/グラフィックアーティスト、ファッションデザイナー。

デジタル機器通・梶原由景 × 2016年の決定版ガジェット
電子手帳など一芸に秀でたガジェットの推進派だったのですが、iPhoneの登場により状況が一変しました。便利な機能がすべてアプリ化されたいま、iPhone以外に必要なのは、ビジュアルや音など質や好みに関わる部分を補強するガジェットだけ。僕の場合、 SNSに美しい食べ物などの写真をアップできるスマホや、自宅や出張・旅行先で使う小さくて音のいいポータブルスピーカーが必要。あと、バッテリーがあれば完璧です。
Leicaプロデュースのスマートフォン「HUAWEI P9」は、撮影後にピント位置や絞りを調整できる。ポータブルスピーカーはBang & Olufsenの「BEOPLAY A1」。バッテリーはコンパクト&パワフルなANKER。
かじわら・よしかげ/クリエイティブディレクター。「LOWERCASE」代表。