真魚八重子が選ぶシネマ『ナイスガイズ!』

こういったタイプの情けない私立探偵モノ、やはり好きだなあと思いにんまりしてしまう。とにかくコミカルなライアン・ゴズリングがチャーミングでたまらない。
舞台は1977年のロサンゼルス。探偵のホランド・マーチ(ライアン・ゴズリング)は、アル中気味のシングルファーザー。娘のホリー(アンガー・リ-・ライス)は父親の尻を叩き、仕事選びにも口を出すしっかり者。ジャクソン・ヒーリー(ラッセル・クロウ)は、未成年者へ淫行を働いた者に制裁を加える示談屋。彼はアメリア(マーガレット・クアリー)という少女から、「わたしを探している男にやめさせて」と頼まれる。そして彼女を探していたのが、まさにマーチだった。
冒頭で有名ポルノ女優ミスティが事故死を遂げるが、他殺の疑いが濃厚だった。彼女の伯母は「姪を死んだ2日後に見たの」と言い、ミスティが生きている証拠をマーチに頼んでいた。年寄りの妄言と思いつつ、彼女の遺作と関りがあるらしいアメリアを、マーチは探していた。ヒーリーもアメリアが失踪を遂げ、命を狙われていると気づき、マーチとタッグを組んでアメリア捜索にあたる。
じつは、情報の出し方がかなり唐突な映画なので、じっと見て咀嚼しないと、展開の意味がわからなくなるかもしれない。アメリアは環境保護団体にいるが、マーチたちが彼女の消息を掴み辿りついたときには、すでに団体からも姿を消しており、アメリアの恋人ディーンも失火の形で殺害されたようだ。
のんしゃらんな男マーチを支える、しっかり者の娘ホリーが大人びていて、とても愛おしい。77年という時代設定にこだわった衣装や、家の内装にイカす車の数々など、それだけでも眺めていて愉楽がある。また、ポルノフィルムからスター女優が登場したり、環境保護運動の活発化、アメリカのシンボルである自動車産業がうまく絡まり合う。そして予言めいた、デトロイトの現在の荒廃。
ライアン・ゴズリングの情けなさは、ロバート・アルトマン監督『ロング・グッドバイ』(73年)の、エリオット・グールドを思い出してしまう。『ナイスガイズ!』はもっとユーモラスでハチャメチャだが、ドジを踏みがちな体たらくの底に、悲哀があるのが意外に奥深い映画である。それにしてもゴズリングのリアクションには、いちいち笑ってしまう。
謎解きも小気味いい、映画自体の構成も70年代の作品を彷彿とさせる、大変雰囲気のある良作だ。
text: Yaeko Mana
『ナイスガイズ!』
製作: ジョエル・シルヴァー、監督・脚本:シェーン・ブラック
出演: ラッセル・クロウ、ライアン・ゴズリング、アンガーリー・ライス、マット・ボマー、マーガレット・クアリー、キム・ベイシンガー
配給: クロックワークス
2016年/アメリカ/カラー/DCP5.1ch/シネマスコープ/116分/PG12/原題:THE NICE GUYS /字幕翻訳:堀上香
(c)2016 NICE GUYS, LLC
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