デヴ・ハインズ=BLOOD ORANGEが沸かせたスムースなステージ

デヴ・ハインズによるプロジェクトBLOOD ORANGEがついに来日を果たし、恵比寿ガーデンホールにてワンナイトオンリーのコンサートを披露した。
今年の夏にリリースされたサードアルバム『Freetown Sound』ではさらに深化したコンテンポラリーなソウル・サウンドを展開してみせたBLOOD ORANGE。その姿を初めてステージの上で目にする機会に否が応でもにも期待は高まる。


オープニングはアルバム『Freetown Sound』でも冒頭を飾った「By Ourselves」~「Augustine」の流れで幕が開き、「Better Than Me」そして初期の名曲「Champagne Coast」という流れだ。


ファルセットで声を震わせ、ギターを手に小気味よいカッティングを披露したかと思えば、くるくるとステージを舞うように踊り、そして鍵盤の前へ腰をおろす。ハインズ以外のメンバーは、ドラム、ベース、キーボード、そして白人の女性ヴォーカルというシンプルな構成で、一段高いひな壇で淡々とそれぞれの担当をこなす。対照的にステージ狭しと縦横無尽に跳ね、踊り、動き回りながら様々な楽器と戯れるように音を奏でるハインズの姿は見ていて爽快に高揚させられる。とにかく軽妙だ。

コンサートの中盤にはニューアルバムからのリードとなっていた「Best to You」。緩やかなイントロから、絡むようなヴォーカルと弾けるリズムの螺旋がフロアとともにその夜のピークへと誘っていく。

キレの良いダンスを交えたステージを見ていてふと思い出してしまったのは、これまで様々な形でいったりきたりのコラボレーションを果たしているKINDNESSのアダム・ベインブリッジのステージだ。そのステップやダンスだけだろうか、いかにもブルーアイド・ソウルな白人的なアプローチながら、ブラックのヴォーカルやミュージシャンを従え洗練したソウル・ミュージックを作り上げていくアダムのKINDNESSに対して、ハインズはブラックでありながら、ときには白人の女性ヴォーカルを前面に押し出すような使い方をして、“黒すぎない”洗練と愛嬌をまとったコンテンポラリーなソウル・ミュージックにまとめあげる。まるでテレコな対照的なアプローチを経由しながら、同種の音の頂を目指してきた……というのはちょっと短絡的な分析なのか。ちなみに、二人の親交のルーツを探ってみると、もともとまだハインズがロンドンに住んでいた頃、フラットをシェアしていた過去もあるというのは面白い。
さておき、BLOOD ORANGEの音楽から単なるソウル・ミュージックのアップデート版に終わらない(乱暴に言うならプリンスにもレニー・クラヴィッツにもなろうとしていない)印象を受けるのは、メロディメイカーとしてのセンスを基にしながらも、それがインディ・バンドに端を発するハインズの雑食性を謳歌したうえに成り立つからだろう。いまやハインズの才能が、プロデューサーや共同ライターとしてFKA Twigs、Sky Ferreira、Solangeといった(ショウビズすぎない)多方面から引っ張りだこなのにも納得させられる。そんなことを考えながらオレンジやブルーに照らされる、なんだかすっきりと艶っぽいステージを見上げていた。

終盤ではニーナ・シモンらのカヴァーで知られるゴスペルのクラシック曲「It’s Nobody’s Fault But Mine」を披露する一幕も。エンディングは代表曲のひとつ「Uncle ACE」でオーディエンスを沸かせ、さらにソロでキーボードだけでスロウな「Better Numb」を歌い上げて幕を下ろした。その後のアンコールに応えてハインズは登場することはなかったけれど、心地よい高揚と余韻の残るステージとなった。

photo & text : Shoichi Kajino
http://bloodorange.nyc/
http://hostess.co.jp/artists/bloodorange/